曲げ加工は、プレスブレーキに上下金型を取り付けて加圧することで金属板を変形させる加工方法です。
一見シンプルなこの曲げ加工にも、実は主に3つの加工法があります。
ここでは、プレスブレーキを利用した曲げ加工であるボトミング・パーシャルベンディング・コイニングの3種類について紹介します。
まず曲げ加工は大きく分けてエアベンディングとコイニングに分類されます。
エアベンディング(空気曲げ)は、板材と下金型(ダイ)の間に空間=“空気”があることからその名がついています。
この後紹介するパーシャルベンディングとボトミングは、このエアベンディングの仲間にあたります。
・比較的低い所要トン数で曲げられるため、コストメリットが大きい(機械性能への依存が少ない・低いトン数のため金型の摩耗、メンテナンスコストが少ない)
・スプリングバック※の影響を受けやすく、加工精度は高くない
・加工後寸法のばらつきもあり加工の再現度がコイニングと比べて低い
・エアベンディングに比べて高いトン数を必要とするため、能力の高い工作機械や摩耗や高いトン数に耐える金型を必要とするためコストがかかる
・高いトン数によりスプリングバック※を抑えられるため、加工精度が高い
※スプリングバックとは、曲げた材料内部の応力やひずみが戻ることで、計算通りの角度よりも開いてしまう現象です。
逆に角度が入り込みすぎることをスプリングゴーと呼びます。
ボトミングはエアベンディングの一種です。
「Bottoming」という名称は英語の“bottom=底”に由来し、「底に到達する」という意味を持ちます。
日本の現場では「底押し」や「底突き」と呼ばれることもあります。
興味深いのは、これらの呼称が単なる直訳ではなく、職人が加工の状態を観察して自然に使い始めた言葉である点です。
結果的に英語の意味と一致しており、エアベンディング(空気曲げ)などと同様に、洋の東西を越えて職人の感覚が共通していることを示しています。
この加工法は、比較的少ないトン数で良好な精度が得られるため、幅広く採用されています。
ただし、スプリングバックとスプリングゴーの影響を受けるため、全体のスプリングバック量(スプリングバック+スプリングゴーの和)を正確に予測するのは難しいです。
材料のばらつき(材質・ロール目・材料ロット・板厚のばらつき)や曲げ速度の違いなどによる加工要因が角度精度に影響します。
そのため、88°や86°など角度を調整した金型を使用するなど、状況に応じた工夫が必要です。
ボトミングはパーシャルベンディングより所要トン数が大きいものの、コイニングよりは小さく抑えられます。
つまり、ボトミングはパーシャルベンディングとコイニングの中間的な加工法といえます。
パーシャルベンディングは、3点を利用して曲げる加工方法です。
パンチの押し込みを途中で止めることで、曲げ角度を自在に制御できます。
板材は3点以外の部分が空気と接しているため、典型的なエアベンディングとされています。
【特徴】
・1つの金型で幅広い角度に対応可能(例:30°の金型で180°~30°まで、直角曲げも可能)
・小さなトン数で加工できる反面、スプリングバックの影響を受けやすく、曲げ精度は比較的低い傾向
「Coining(コイニング)」という名称は、古代の貨幣製造技術に由来します。
金属板を金型に挟み、高圧で押し込むことで模様や文字を精密に転写し、硬貨を成形していました。
この高精度な技術が後に板金加工にも応用され、現在のコイニング加工へと発展しました。
現代のコイニングも原理は同じです。
金型に高圧を加えることで材料を塑性変形させ、寸法精度や表面仕上げを高めます。
通常のV曲げやエアベンディングが「角度をつくる」加工であるのに対し、コイニングは「金型形状を精密に写し取る」加工といえます。
【特徴】
・加圧力は一般的なエアベンディングの5~10倍に達する
・材料が微細に流動し(塑性流動)、中立軸が押し潰され材料全体が均一に変形
・残留応力が除去され、寸法精度と安定性に優れる
つまり、コイニングとはコインを製造するように“曲げる”のではなく、“塑性流動させて形を刻む”加工といえるでしょう。
下図は、主要な3種類の曲げ加工(エアベンディング・ボトミング・コイニング)の違いを、精度・スプリングバック・コスト・特徴の観点から比較したものです。
それぞれの加工法には明確な特徴があり、求める精度やコストバランスに応じて最適な方法を選定することが重要です。
一般的には、エアベンディングは汎用性・コスト重視、ボトミングは精度とトン数のバランス型、コイニングは高精度重視の加工として使い分けられます。
アーバンカンパニーでは高精度な試作板金加工を実現するため、公差±0.05mm以下の精密曲げ加工にも対応しています。
特に、寸法精度を最優先とする部品にはコイニング加工を積極的に採用しています。
一般的に「コストが高い」といわれるコイニングですが、過去の豊富な加工実績から得た展開長データベース(材質・板厚・形状などを考慮)を活用することで、設計段階から最適値を導き出し、試作トライ数を大幅に削減。
さらに、多種多様な専用金型と熟練技術者による段取り最適化により、高速かつ安定した加工を実現しています。
これらの取り組みにより、高精度と低コストを両立したコイニング加工が可能となっています。
お客様の製品仕様や用途に合わせて、エアベンディング・ボトミング・コイニングの3種の加工法から最も適した方法を選定し製作いたします。