「図面にあるこの突起指示、エンボスとバーリングどちらが正解なのか?」
「薄板の製品設計で、ネジ止めの強度を確保したいが最適な方法は?」
板金加工の設計や発注を行う中で、こうした疑問に直面することは少なくありません。
どちらも金属板の一部を突起状に変形させる加工ですが、その役割と形状には決定的な違いがあります。
この違いを曖昧にしたまま設計を進めると、「ネジが締まらない」「部品が干渉する」といった重大なトラブルや、無駄なコストアップにつながるリスクがあります。
本記事では、エンボス加工とバーリング加工の具体的な違い、用途別の使い分けそして強度に関する比較を徹底解説します。
設計品質の向上とコストダウンのヒントとして、ぜひお役立てください。
まず、エンボス加工とバーリング加工の基本的な定義と形状の違いを明確にします。一見似ている両者ですが、加工の目的が全く異なります。
エンボス加工とは
金属板に凸状(または凹状)の突起を作る「絞り加工」の一種です。
最大の特徴は、「穴が開かない」点です。板の一部を押し出して高低差を作りますが、素材の連続性は保たれます。
主な役割は、デザイン、スペーサー、他の部品との接触回避
あるいは板そのものの剛性を高めることです。
バーリング加工とは
下穴を開けた後、その穴の縁を円筒状に立ち上げる加工です。
「フランジ加工」とも呼ばれます。最大の特徴は、「穴が開いており、立ち上がりがある」点です。
主な役割は、薄板に対して十分な厚みを確保し、タップ加工を可能にすることです。単なる穴あけよりも強度が増すため、部品の締結箇所に多用されます。
それぞれの加工法を採用することで得られる具体的なメリットを解説します。
実際の製品開発現場において、どのように使い分けられているか
具体的な事例を紹介します。
事例1:操作パネルのボタン機構
ある産業機器メーカー様から、「操作パネルのスイッチ部分のクリック感を向上させたい」というご相談をいただきました。
私たちは、ステンレス板にドーム状のエンボス加工を施す設計を提案。金属特有のバネ性を活かし、エンボス部分自体をスイッチの接点として機能させることで、部品コストを抑えつつ、耐久性の高い操作パネルを実現しました。
事例2:通信機器の基板固定
「筐体の軽量化のためにアルミの薄板を使用したいが
基板を固定するネジ穴の強度が心配」という案件がありました。
単純な穴あけでは強度が不足するため、M3のバーリングタップ加工を採用。立ち上がり部分に十分なネジ山を形成することで、振動試験にも耐えうる締結強度を確保しました。また、バーリングの立ち上がりを基板の位置決めガイドとして兼用する設計変更も行い、組立やすさも向上しました。
試作から量産まで、最適な加工をご提案
「設計図面ではエンボスになっているが、本当にこれで強度が持つのか不安…」
そんな時は、ぜひ一度ご相談ください。アーバンカンパニーなら、試作段階から材質・板厚に合わせた最適な加工方法をご提案可能です。
設計者の方から頻繁にいただく質問に対して、プロの視点で回答します。
Q1. コストはどちらが安いですか?
結論: 一般的にはエンボス加工の方が安価になる傾向があります。
理由: バーリング加工の場合、「下穴あけ→立ち上げ→タップ切り」という工程が必要になるのに対し、エンボス加工はプレス一回で成形できる場合が多いからです。ただし、どちらも専用の金型が必要になるため、数量や形状によってイニシャルコストは変動します。
Q2. 強度における注意点は?
結論: バーリング加工時の「割れ」に注意が必要です。
理由: 特にアルミや硬いステンレス材で、下穴径と立ち上げ高さのバランスが悪いと、加工時に縁が割れてしまいます。
対策: 材質ごとの限界加工率を考慮した設計が必要です。弊社では、過去の膨大な加工データに基づき、割れを防ぐ最適な下穴径と金型を選定しています。
Q3. どこまで高く加工できますか?
結論: 一般的に、板厚の2〜3倍程度が限界の目安です。
詳細: 無理に高くしようとすると材料が伸びすぎて破断します。高さが必要な場合は、別途スペーサーの使用を検討する方が、結果的に安く安全な場合があります。
本記事では、板金加工における重要な要素である「エンボス加工」と「バーリング加工」の違いについて解説しました。
最適な加工法を選ぶことは、製品の品質を高めるだけでなく、コストダウンや納期短縮にも直結します。
しかし、材質や板厚、用途によって正解はケースバイケースであり、判断に迷うことも多いはずです。
全国の設計者様の「作りたい」をカタチにするお手伝いをしています。
図面がない段階、ポンチ絵からのご相談も可能です。